手紙を書いて、ポストにいれて、相手に届くまでの時間みたい
【Q1】写真を撮ったときのエピソードを教えてください。
【1枚目】南阿佐ヶ谷で六月に開店した「枡野書店」のトイレ。おとなりで帽子工房をやっている帽子作家のかたが一輪くれた、あじさいを飾ってみました。枡野書店の写真は外観を含めて色々撮ってみたけれど、これが一番しっくりきた。
【2枚目】渋谷にある服飾デザイナーの友人の工房。真ん中にミシンのある写真も撮ったのですが、窓からの光の感じに目が行きました。
【3枚目】 仕事で馬籠というところに行ったとき、喫茶店で珈琲を飲んだときの一枚。いつもかけている眼鏡をはずして。いつもはカメラとしても利用しているiPhoneをテーブルに置いています。iPhoneカバーはソエジマケイタさん撮影の電線写真をプリントしたオーダーメイド。
【4枚目】名古屋から東京へ帰る途中の新幹線。大きく倒した背もたれのすきまから見えた人、人。こんなときもコンセントから電気を得ている。
【5枚目】まず花壇に目が行き、その前の少女に目が行き、傘を持ったおじさんにも目が行き、全体を撮りたいと欲張り過ぎました。東京に帰ろうとしているときの小田原駅で。
【6枚目】これも移動中ですが、どこの駅だったか。鳩がやたらといる駅です。人はいません。移動の多い六月でした。
【7枚目】電線のある空にひかれます。いつも似た空ばかり撮ってしまう。まえも見た気がする空だと思いながら。
【8枚目】どこかの町で道に迷っていたときの一枚。合羽橋だったかもしれません。いや荻窪か。植えたわけではないらしい草に気をとられています。
【Q2】普段はどんな被写体を撮ることが多いですか?
iPhoneだと、赤瀬川原平さんの「路上観察」的な写真をよく撮っています。あとは駅で酔っぱらって寝ている人。ホームでキスしているカップル。電線のある空。階段。どこにも発表することなく消してしまいます。
【Q3】はじめてNATURAを使った感想は?
シャッターを押した瞬間、手ぶれを起こした自覚が何度もあったので、こんなに被写体が何だかわかる写真ばかりだとは思っていませんでした。驚き。
【Q4】枡野さんにとって写真とは?
言葉だけの夢をみるくらい、ビジュアルに鈍感です。写真を撮る代わりに短歌を詠んでいるのかもしれません。
《あじさいがぶつかりそうな大きさで咲いていて今ぶつかったとこ》
(雷鳥社『歌』より)
【Q5】さいごにNATURAの魅力とは?
デジタルカメラとちがって、現像するまで、どんなふうに撮れているかわからない。手紙を書いて、ポストにいれて、相手に届くまでの時間みたいでした。無惨なものが出てくると覚悟していたのに、思いのほか、きれいでした。ピントが合っていないものも、いい感じの、ピントの合わなさというか。捨てられない手紙のような、数枚が残りました。
PROFILE
枡野浩一
●職業:
歌人
●最近の活動:
写真短歌集『歌 ロングロングショートソングロング』(短歌:枡野浩一、写真:杉田協士)が雷鳥社より発売中
出演した杉田協士監督の映画『ひとつの歌』が10月上旬に渋谷・ユーロスペースにてレイトショー決定
南阿佐ヶ谷で仕事場を兼ねた小さな店「枡野書店」を不定期営業中
twitter.com/masunobooks
https://note.com/masuno/circle
NATURAピープルとは
各界で活躍する写真好きなゲストが登場!
富士フイルム製コンパクトフィルムカメラ「NATURA」で撮ったプライベート写真をご紹介
NATURAやそれぞれのカメラライフについてのお話しをどうぞお楽しみください。
本ページは、2008〜2012年に渡り、カメラピープルにて隔週更新していましたアーカイブ記事です。最新情報と異なる内容(プロフィール等)がございます。あらかじめご了承ください。